設立趣意書

現在、世界の医療は、個別化医療の実現を大きなテーマとしたゲノム医療へ向けて大きく舵をきりつつある。ゲノム医療を目指す個別化医療の基盤として生物資源の保存と利用が大きく脚光をあびつつあるなか、生物資源の保存に関して国際標準化の議論が始まった。標準化に関する議論の中には、標準化は現状固定であり、科学技術の進歩を妨げるという否定的な反応もある。しかしながら歴史に目を移すと標準化が技術革新を誘導した例もあることに気付く。要は標準化そのものではなく、標準化が何を目指しているかにかかっているように思える。ここから生物資源の保存における標準化では、その議論を主導するものが保存側ではなく利用者側であるべきだとの認識にたどり着く。技術革新は常に利用者がはぐくんできた。

一方、バラ色にみえる個別化医療であるが、これを日常の医療の場で行うには、高額の費用がかかる。そのため、すでに人々の間に存在する経済格差により個別化医療の恩恵を受けられない人々が出てくることになるだろう。このような医療格差を回避するためのこたえの一つが生物資源の保存と利用である。ある程度の投資は不可欠なものの、保存された生物資源の利用を広く社会に開かれたものにすることより、個別化医療の基盤となるゲノム情報をはじめ多様なオミックス情報の集積が可能となり、結果として適正な費用負担での個別化医療が実現できると考える。

さらにヒト以外の分野に目を向けると、世界の食糧産業においては、農作物育種の実現を大きなテーマとして、最新技術を含めた育種、品種改良が進められており、改良された多様な遺伝子資源を含めた利用、保存、系統維持の必要性が高まっており、ヒト生体試料のみならず農作物、微生物など生物資源の保存に関して国際標準化の議論が始まった。
 上述した生物資源の保存と利用の役割に鑑み、この枠組みを持続可能な形で維持し、さらに発展させていくことが重要であるとの認識に至った。

今後、我が国においては、少子化それに引き続く高齢化が進行していくが、このような環境下では、社会基盤であっても「公」からの資金だけに依存できなくなることが容易に想定される。そういった時代にあっては、「私」としての生物資源利用者が「競争前段階」から積極的、かつ能動的に社会基盤の維持発展に関与していくことが極めて重要である。
このような状況を踏まえ、「私」としての生物資源利用者を主体としたものが、各々の立場を越えて手を握り、国際標準の枠組みのもと、生物資源に関する基盤整備の一部をになうことを決意し、「一般社団法人 日本生物資源産業利用協議会」を設立した。

「一般社団法人 日本生物資源産業利用協議会」は、現在のわれわれだけでなく、われわれの子孫が、より格差のない医療サービスのもと、豊かなかつ幸福な日々を送れることを目的としている。

2018年1月22日
発起人一同